利確生牡蠣 乙 きょ澤

読めばわかる!!!男のエンジョイ生活日記。

逮捕釈放暴行障害賭博快楽平凡煩悩

そもそもまず初めに断りたい

 

僕がこうして発信する、このブログに関してクオリティー等は

、ラジオを点ければ流れてくるような日々の雑踏の詰め合わせなんかとそう変わらないと思っている

 

無駄に過ぎる毎日の隙間に携帯を覗く

 

流動的に情報が入ってきて、

 

取捨ながら親指でスライドしてゆく 人と人との距離感はとても曖昧で、アイコンやプロフィールで主張した人格を140字の瓶に詰めて海に流せば、同じコンテンツを首から下げた誰かに届いたりする

 

ごった返しの海水浴場を見渡せば、

 

誰かが笑って、

親とはぐれた子供が泣いて、ナンパに耽る男や気休めのクリームやパラソルや、イルカの形をした浮輪があちらからこちらへ、陽が沈んで、花火のバケツが取り残されていたりする

 

その視界の中に、僕も、貴方もいる 隣の海にはあの子がいるかもしれないし、あの小屋にいけばまた違う誰かと乾杯出来てしまう

 

でも僕はここにいて

 

貴方もここにいる

 

その浜辺で勝手に呟いて、電池式のアンプにマイクを繋いで、善意のカクテルに愛想笑いをしたり、誰に向けてでもないオナニーを掻き鳴らしたり、身を小さくして腕を組む傍観者に想いを馳せたり、小走りで寄ってきてギターケースに投げてゆく小さな絆を、どこかで尊く感じたりしている

 

僕はそんな、貴方が親指で泳いだ先の何処かでそうしている変なヤツで、誰になんと言われようと、僕はその僕を面白がっている フィクションがノンフィクションだなんて歯が浮いて外じゃ言えないけれど

 

貴方もそれを面白がってくれるのならばと、偶にここでだけは言いたくなる

ーーー

 

金曜営業終わりの朝、友人と横並び、吉野家のカウンターに座って瓶ビールを開けた

 

行儀よくちょこんと肩を落としたサラリーマンが味噌汁を啜ったりハムエッグをつついていた

 

横目に申し訳なさを感じつつも、2枚入りの鰻重を下品に平らげて、水道を捻ったみたいに尽きない与太話をだらだらと撒き散らして、

 

明日も週末だし早く帰ろうぜ

と言った誰かに珍しく反論もせず

 

その日は静かに帰宅した

 

夏を感じるには充分なほど熱くなったアスファルトを15分、セブンイレブンで水と煙草を買い、

 

歩き疲れた額の汗を拭いながら郵便受けを開けては閉じて、携帯を見たままオートロックに鍵を差し込む、

 

そんな変わらないいつもの朝だったように思う

 

シャワーを浴びて裸のままパソコンの電源を入れ、

 

競馬の予想アプリを開き彼女のTwitterをチェック、

ポーカーアプリを開き心が焼ける毎日

 

そんなこんなくだらない、けど自分にとってはいつものルーティンをこなしながらパンツを履いた頃

 

インターホンが鳴った 酒で酔い、大麻でブリって気が大きくなったらネット通販でやたらと課金癖がある我が家には佐川急便や個人配達員がひっきりなしに来る

 

その類の客だと思っていた分、埋まったらしい宅配ボックスに苛立ち、黙ってそこに置き配して行けよ、 と内心で舌打ちをして無視をした

 

それでもマンションの下の誰かはお構いなしに繰り返しインターホンを押す

 

気の抜けたようなメロディの癖に、煩いほど大きい呼び出し音がまた部屋に響く

 

大概、モニターに大きな荷物を抱えたそれか、ふざけた変顔をカメラに押しつけウイイレスマブラ、ポーカーをしに来る友人のどちらかだ

 

2回目で流石にモニターを覗くと、やっと、それが玄関のドア向こうに居る事を悟った カメラは起動しておらず、左上に”玄関”とある 「はい、なんですか?」 大体察しが付いてしまった分、はい、なんですか?なんて、普段言わなそうな白々しい返事をマイクに吹き込んでみる 鰻のタレと入れ過ぎた山椒と、安くて薄いビールがぐるぐると混ざって出てきそうになる 不快な胸が、気付けば、どんどんと早くなる

 

「警察だけど、開けて貰えるかな」

 

昨日、街に出勤するその直前までマリオパーティに金を賭けてどんちゃん騒ぎをしたこの部屋

床にはバーガーキング、ピザ、マックの紙袋が所狭しと散乱している 飲みかけのコーラに虫が湧かないかと心配になる

 

そのゴミの中に立ちすくんでパンイチのまま思案するのはいくら何でも、とはいえども、哀しくもそれが現実で、コンコンコンコンと、少なくとも1回分は余計なノックが僕を急かしている あれとこれを悪足掻きに突っ込んで、

 

煙草を咥えて、Tシャツを頭から被ってドアを開けた 男女で8人程、すかさずドアを掴んだ若手と、でっぷりと腹の出た小汚いあのマル暴と、闇スロット屋に出入りする見慣れた刑事が足を入れてきて、

団扇を仰ぐ不動産屋と大事そうに書類を抱えた小柄なおばさんが後ろの方で睨んでいる

 

 

はあ、、、と溜息を吐くよりも早く逮捕状を読み上げて、ガサだガサだと詰め寄ってきて、 あっという間に狭い我が家はいっぱいになった

 

僕は観念して、

 

甘えたように断ってから咥えていた煙草に火を着けて、デスクチェアに座る

 

その横で舐める様に部屋を見渡し、ふーんと呟くヨレたポロシャツにむかつく

 

「傷害ね、こないだの、ね、やり過ぎだよな」

 

確かにそう言ったスロ専デカに一言文句を言う 大体の必要な意地っ張りを形式的に捲し立ててはすぐに閉幕する、そんなお決まりの予定調和を、鼻で笑った脂野郎にまた腹が立つ

 

まあまあ、

 

なんて

 

適当に話を終わらせた若手が狭い部屋で身を捩る様にデスクまで詰めて来て、

 

事件当時に監視カメラで撮影された僕の写真を机に叩きつけ、その時に着ていた服や靴を出せと、精一杯頑張って、重たく振りかざす

 

僕は灰を落として、

胸を撫で下ろす

 

お兄さん気合入れ過ぎだよ

なんて茶化すとベテランが笑って

 

つまらなさそうな顔で腕を組んだ若手に微笑んでやる 笑わせれば大体こっちのペースで済ませられた

 

煙草、吸っていいすよ、

 

と声を掛けてやれば嬉しそうにソファに腰掛ける彼らも人間で、慕われない寂しいおじさんなんだろうか、などと思う

 

そうして形式からもう少しだけ踏み込んだ事情や本音をそこに滑り込ませ、抜き取って、お互い思惑含んだ会話をしながら身支度をする 底の深いマルニに洗濯したか不安な下着

 

現金に部屋着、

ポータブル充電器

デスクの引き出しから必要そうな書類と免許証、それとキャッシュカード 整理しながら落とす視線の先にあの時の写真がまだ置いてあって、ふと思い返して目を瞑る

 

4月の頭

 

深夜はまだ寒い頃 黒いノースフェイスから伸びた右手は残像 俯瞰された絵に熱はなくて、切り取られた現実だけが静止してそこにある

 

逮捕状

傷害 刑法204条 …と……は共謀の上、…に頸椎捻挫、

云々 大仰な文章で繰り返し読まれた

 

ガサの開始と終わりの時間を書類に書き込んだおばさんが、また身を捩らせて外に出てゆく 簡単にまとめれば、僕と仲間の2人で被害者に3週間程の怪我を負わせたと書いてある

 

写真のように切り取って掲げられたその事実は、確かに事実だった

 

仕事で捕まるのは日々覚悟の上でも、こうして30歳目前に傷害なんかで前歴を残すのは流石に恥ずかしく思えたし、正直、ただ不運にも思えた 頭を掻いて荷を担いで、閉めたばかりの鍵を黙って刑事に渡し、ナイキのサンダルが上手く履けなくて、よたよたと虫が鳴く

 

外に出る 暑いなあ、

 

と呟いたスロ専デカに促されて銀色の日産車の後部座席へ押しやられる

 

両脇に警察官が座る3人シートの真ん中で、出来るだけ、ひとりの大人として、堂々とした態度を気取って、少しだけ、

背筋を伸ばす 右手から手錠を迎えて左手を添える

ふっ、と一息吐いてから

 

、じゃあと断った担当刑事の若手が、

 

仰々しく最後に告知した 8月10日、

お盆を前にそうして僕は逮捕された

 

この先が続くか続かないかはお楽しみだ